高速道路や街中で増え続けるセルフ式のガソリンスタンド。しかし、車椅子を利用する人々にとっては、その「当たり前」が大きな障壁になっているのをご存じでしょうか。「代わりに給油してもらえますか?」と頼んだだけで、鼻で笑われ断られた――そんな声が今、現実に存在しています。
この記事では、実際に対応を拒否された車椅子ユーザーの体験をもとに、「なぜセルフ給油ができないのか」「高速道路で困る理由」「今後の改善策」までをわかりやすく解説します。給油以外でも直面している課題もあわせてご紹介します。
この記事を読むことで、車椅子ユーザーが直面している課題とその背景、そして今後社会がどのように変わるべきかが見えてきます。
1. はじめに:車椅子ユーザーとセルフ給油の現実
1-1. 「代わりに入れてもらえますか?」に「無理ですね」と笑った店員
セルフ式のガソリンスタンドが主流になりつつある中で、車椅子を利用している人々が給油のたびに直面する「見えない壁」が存在します。
ある女性が高速道路のガソリンスタンドで給油をお願いした際、スタッフから返ってきたのは「セルフなんで無理ですね」と鼻で笑うような冷たい一言でした。彼女は車椅子を使用しており、自分では給油機のパネル操作が困難な状態。だからこそ「代わりに入れてもらえませんか?」と丁寧に依頼したのですが、その対応は非常に機械的で、まるで人として扱われていないかのように感じられたといいます。
このようなやりとりは、たった一言でその場の空気を凍らせるだけでなく、当事者の心にも深い傷を残します。合理的な理由があるかもしれませんが、伝え方や配慮のあり方には大きな違いがあります。
1-2. SNSで話題になった渋谷真子さんの実体験とは
この体験を語ったのは、車椅子ユーザーの渋谷真子さんです。彼女はX(旧Twitter)上で自身の体験を発信し、多くの共感と反響を呼びました。
新東名高速を一人で移動中、給油のために立ち寄ったガソリンスタンドで断られた出来事について、「セルフスタンドばかりで、どこにも給油できる場所がなかった」と振り返ります。普段はフルサービスのスタンドを利用していたものの、高速道路では選択肢が限られており、仕方なくセルフのスタンドを訪れたとのことです。
その後、別のスタンドで同じように給油の補助をお願いしたところ、「もちろんお手伝いしますよ」と笑顔で対応してくれたスタッフに出会ったといいます。このような差に、彼女は「せめてフルとセルフが併設されていれば…」という願いを強く抱くようになりました。
2. なぜ「車椅子でセルフ給油」は難しいのか?
2-1. タッチパネルに手が届かない・ノズルを持てない
一見すると、セルフ式ガソリンスタンドはシンプルな仕組みで誰でも使えそうに見えます。しかし、車椅子を使用している人にとっては、いくつもの物理的なハードルが存在しています。
まず、タッチパネルの位置が高すぎて手が届かないことが多いです。また、給油ノズル自体も重く、片手で扱うことが難しい人も少なくありません。加えて、決済端末やレシート受取口なども、高さや配置の問題でアクセスできないケースが多いのが現状です。
設備の設計自体が、健常者を基準にしているため、車椅子ユーザーにとっては非常に使いづらい仕組みとなっています。
2-2. スタンド側の「セルフだから対応できない」対応の背景
ガソリンスタンドのスタッフが「セルフだから対応できない」と言うのには、店舗側の事情もあるようです。セルフ式のスタンドは、そもそも人件費を削減する目的で導入されているため、常時スタッフが対応できる体制になっていないケースも多いです。
また、「セルフ」と明記されている以上、給油の補助を行うと事故やトラブルの責任問題が発生する可能性もあるため、現場のスタッフがマニュアルに従って対応を拒否することもあるでしょう。
とはいえ、ただのマニュアル通りの対応だけでは、人としての配慮や尊重が失われてしまう危険もあります。
2-3. 法的にはどうなの?合理的配慮義務と経産省のガイドライン
ここで注目すべきなのが「障害者差別解消法」です。この法律では、事業者に対して「合理的配慮」の提供を義務づけています。つまり、障害のある人が困っている場面において、できる限りの支援を行うことが求められています。
さらに、経済産業省もガイドラインの中で、「セルフサービスのガソリンスタンドにおいて、要望があった場合には安全確保を前提として給油の補助を行うこと」を合理的配慮の一例として明記しています。
これは法的にも、「セルフだから無理」という一言で済まされる話ではなく、状況に応じた柔軟な対応が望まれているということです。
3. 対応してもらえない現状と、対応してくれた例の違い
3-1. 新東名高速で起きた2つの対照的な体験
同じ高速道路上でも、ガソリンスタンドによって対応がまったく異なることがあります。
渋谷真子さんが最初に訪れたスタンドでは、スタッフから冷たくあしらわれてしまいました。しかし、数キロ先の別のスタンドでは、状況を理解し、快く給油の手助けをしてくれたと言います。
この違いは、施設の設備によるものだけでなく、スタッフ一人ひとりの意識や教育にも左右されていると考えられます。つまり、全てのスタンドが「対応できない」わけではなく、対応しようとする姿勢があるかどうかが分かれ目になっているのです。
3-2. 給油スタッフの対応の差がもたらす心理的影響
対応してもらえなかった経験は、単に「給油できなかった」だけにとどまりません。特に車椅子を利用している方にとっては、「拒否された」「疎外された」と感じてしまう精神的なダメージにもつながります。
一方で、笑顔でサポートしてもらえた経験は、「社会に受け入れられている」という安心感や自信を与えてくれます。同じガソリンスタンドという場所でも、対応ひとつで利用者の心に大きな違いを生むのです。
だからこそ、マニュアルだけに頼らず、現場のスタッフが人としての思いやりを持って対応することが、何よりも重要なのではないでしょうか。
4. 高速道路の給油所はなぜ「セルフのみ」が多いのか
4-1. セルフ化の進行と運営コストの事情
近年、ガソリンスタンド業界では「セルフ式」の店舗が急速に増加しています。これは一般道に限らず、高速道路上のサービスエリアでも同様の流れが加速しており、その背景には明確な理由があります。
最大の要因は、人件費の削減です。スタッフを常時配置しなければならないフルサービス型と比べ、セルフ式は少人数のスタッフで運営できるため、コスト面で大きなメリットがあります。また、深夜帯でも給油可能な24時間体制を維持しやすいのも、セルフ化が選ばれる理由のひとつです。
さらに、近年は利用者側もセルフ給油に慣れてきており、「自分でやるのが当たり前」という認識が一般化しつつあります。そのため、わざわざ高コストなフルサービスを維持する動機が薄れ、結果としてセルフのみのスタンドが主流になっているのです。
4-2. 利用者が「選べない」高速道路の特殊事情
高速道路における給油所のもう一つの特徴は、「ユーザーが選択肢を持ちにくい」という点です。
一般道であれば、複数のガソリンスタンドから自分に合った店舗を選ぶことができます。しかし、高速道路上では、限られたサービスエリアやパーキングエリアしか選択肢がなく、そこにセルフ式しかなければ、給油したくてもできないという事態に直面します。
車椅子ユーザーにとっては、単に「面倒だから別の店へ行こう」では済まされない深刻な問題です。事前にルートを確認し、フルサービスのある場所を把握しなければならない上、高速道路では一度通過してしまうと引き返すことも困難です。
この「選べなさ」が、障害のある方々にとって、より一層の負担となっているのが現状です。
5. 今後、車椅子ユーザーが安心して給油するには?
5-1. フルサービスとの併用設置を望む声
車椅子ユーザーや高齢者など、セルフ給油が難しい人々からは、「すべてのスタンドをフルサービスに戻してほしい」とまでは言わずとも、「最低限、フルとセルフを併設してほしい」という声が多く上がっています。
実際に、高速道路のスタンドでも、すべてをセルフにせず、1レーンだけフルサービスにしておくだけでも、大きな助けになります。そこにスタッフを常時配置しておく必要はなく、インターホンなどで呼び出せる仕組みを作れば対応可能です。
このような「選択肢の確保」は、サービスの質の向上につながるだけでなく、すべての人が安心して使えるインフラ整備として、今後ますます求められるでしょう。
5-2. タッチパネルの高さやサポートスタッフの配置改善
セルフスタンドを完全に否定するわけではありません。ただ、今の仕様は、車椅子ユーザーには不親切な設計となっているのが事実です。
たとえば、タッチパネルや決済機の高さを調整可能にしたり、傾斜をつけて見やすくするなど、物理的な改善がまず必要です。こうした点が整備されることで、「セルフでも給油できる人」が増えていく可能性があります。
また、すべての時間帯で対応するのは難しくとも、日中のピーク時間だけでもサポートスタッフを配置し、「声をかければ手伝ってくれる」という安心感を提供することで、多くの不安が軽減されるはずです。
5-3. 心のバリアフリーの重要性と研修の必要性
設備だけでなく、接客する側の「心のバリアフリー」も非常に重要です。
車椅子ユーザーの渋谷真子さんが体験したように、「無理ですね」と笑いながら断るような対応は、たとえマニュアルに従った正当な判断であっても、受け手にとっては深い傷となります。
障害のある方と接する機会が少ないスタッフにとって、どう対応すればよいのかわからないのも事実です。だからこそ、全スタンドで一律の接遇マニュアルを作成したり、年に数回の研修を義務化するなど、実践的な教育が必要とされています。
少しの心遣いが、利用者にとって大きな安心感につながります。
6. セルフ給油以外でも困ることとは?
6-1. 駐車場の確保やスロープの整備不足
車椅子ユーザーが給油以外にも困る場面は多く、駐車場の整備はその代表的な例です。
障害者用駐車スペースが他の車に勝手に使われていたり、そもそも設置されていないサービスエリアもあります。さらに、店内へのスロープがなかったり、傾斜が急で登れないなど、移動そのものが困難な状況も少なくありません。
これは単なる「利便性の問題」ではなく、そもそも利用すらできないという重大なバリアになっています。
6-2. 多目的トイレの鍵が開かない問題
長距離移動中にトイレを使用することも、車椅子ユーザーにとっては大きな課題です。
多目的トイレが設置されている場所は増えてきましたが、実際には「施錠されていて使えなかった」という声も多く聞かれます。スタッフを探して鍵を開けてもらう手間や、場合によっては鍵を持っていないスタッフもいて、使用できずに困るケースも報告されています。
こうしたトラブルを減らすためには、電磁ロックの導入や、使用中かどうかをスマートフォンで確認できるシステムなど、新しい技術の導入も検討されるべきでしょう。
6-3. 目的地に「アクセスできない」情報の不足
もう一つ見逃せないのが、「情報のバリア」です。
たとえば、目的地にスロープがあるか、段差はないか、トイレは使えるのかといった情報が事前にわからず、到着してから困るケースが後を絶ちません。情報がオープンにされていないことが、行動の自由を制限している大きな原因になっています。
アクセシビリティに関する情報を提供するアプリやウェブサービスは少しずつ増えてきていますが、まだまだ普及しているとは言えず、正確性や更新頻度にも課題があります。
誰もがスムーズに目的地へたどり着けるよう、正確で分かりやすい情報提供体制が求められています。
7. まとめ:設備も心も“バリアフリー”な社会へ
セルフ給油の普及が進む現代において、車椅子ユーザーが直面する困難は、見過ごされがちです。しかし、ちょっとした設備の見直しや、スタッフの心遣いひとつで、大きく改善できることも多くあります。
「自分には関係ない」と思われがちな問題かもしれませんが、誰しもが一時的にでも身体が不自由になる可能性はあります。そのときに困らない社会をつくることは、未来の自分や家族を助けることにもつながります。
一人ひとりの意識と、企業や社会の仕組みの改善が合わさることで、真に“バリアフリー”な社会が実現するはずです。今こそ、「設備」と「心」、両面からの見直しが求められています。
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